水量が多いと冷えづらい?
成人の日も終わり、街角から正月モードが抜けつつある今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。こんにちは。ごん太です。
さて、今回も過去に削除した物の中から、テーマが普遍的なものを選び、加筆修正してお届けしたと思います。というわけで、今回もほぼヨミモノ。
前回、「初心者さんは水量が多い方がいい。でも、重量もあるのでよく考えて!」という記事を投稿しました。今回は、その続きとも言える内容です。水槽の体積(容積)と表面積について述べていきます。
大きな水槽は冷えづらい? 小さな水槽は冷えやすい?
そんな理屈をベルグマンの法則に絡めつつ話していきたいと思います。
水量が多いことのメリットとは?
大きなタンクに憧れる理由
アクアリウムという趣味を知るほどに、大きなタンクに憧れるものです。
ときに入門用としてよく取り上げられる60cm規格水槽。その水量は決して十分ではないものの、主流の座を虎視眈々と狙う30cmキューブと比べれは、明らかに多いと言いえるでしょう。新規に水槽を設置するわけでもないのに、こうしてあれこれと水量を吟味するには、理由があります。この大小で様々な特徴が生まれるからです。
魚が入る入らないといった現実的な問題や、雄大さや優美さといった美的観点な話は抜きにすると、(←ここ今回の話の大前提)
最たる利点は水量が多いために水質悪化が遅いこと。
とりわけ、ろ過が立ち上がる時に威力を発揮します。同じ飼育数ならという前提が付きますが、少ない水量でアンモニアや亜硝酸塩の濃度がグングンと増えるよりも、大きな水量でジワジワと上がったほうが濃度的・時間的な制約が緩く緊急時の対処もしやすくなります。さらに、日々の水質変化もおだやかでメンテナンスが行いやすくもあります。
そのような大切な特性が、水槽設置時にだけ選べるワケです。なら、日ごろからいろいろと考えておきたくなるものです。
さて、ここからが本題となります。では、水量が多いことのメリットは水質以外にあるのか?
その1つの答えが、「水温」になります。
水が多いほどに電気代がかかる
さて、ここから中学校の理科の授業を思い出してください。
ここに、水が入った水槽があります。中の水を温めるには何が必要でしょう? ヒーター? もちろんです。ただし、今は理科の話をしていますから、電熱線とでも言い換えておきましょう。これを熱し、その結果水を温めるものが何か? それがこの問いの答えとなります。
エネルギー。
ここで思い出して欲しいのは、
1gの水を1℃温める熱量 = 1cal
この実験のメカニズムを含めて考えると、コンセントからの電気エネルギーが電熱線の抵抗で熱エネルギーに変換され、水槽の水を温める。これが水槽用ヒーターという加温システムの根源です。
しかし、上の式はそれ以外のことも示唆しています。
多くの水を温めるのには多くの熱量=電気エネルギーが必要になるのです。
下記に3つのヒーターと消費電力をまとめてみました。30cmキューブ水槽用、45cm規格水槽用、そして60cm規格水槽用です。それぞれのW数を見てみましょう。
30cmキューブ水槽用ヒーター → 50W
45cm規格水槽用のヒーター → 100W
60cm規格水槽用のヒーター → 150W
水槽サイズが大きくなるほどに、ヒーターのW数も上がることがお分かりいただけると思います。
さて、燃料費が高騰している昨今、おそらく多くのアクアリストに切実な問題は電気代。上で紹介した3つのヒーターのW数を元にして考えれば、水槽のサイズが大きくなればなるほど、電気代が上がるのがわかります。
「なんだ、大きな水槽は電気代がかかるのか~。なら、デメリットじゃないの?」
……、そうとも言い切れないのが、この話の難しいところ。たしかに、水量が多いほどに電気代は掛かりますが、水温の上下を安定させやすいというメリットがあるのです。
(とある日の水槽。前景草は未だ試行錯誤中) |
ベルグマンの法則とアクアリウムタンク
ベルグマンの法則とは?
ベルグマンの法則をご存知でしょうか?
寒いところに住む生き物は、同種間で比較すると体重が大きくなりやすい。
暖かいところに住む生き物は、同種間で比較すると体重が小さくなりやすい。
という法則です。
体重が大きいということは、その体積も大きくなり、したがって体長も大きくなる傾向にあります。よく例として挙げられるのが、ホッキョクグマとマレーグマです。前者は体長200~300cmであるのに対して、後者は体長140cmしかありません。それ以外にもエゾシカとケラマジカ、さらにはヘラジカにおける緯度と体重の関係がこれにあたります。
では、なぜ寒冷地ほど体重や体長が大きくなるのでしょうか?
かのスライムを通して考えてみる
今まで挙げた、ホッキョクグマ、マレーグマ、エゾシカ、ケラマジカ、そしてヘラジカ。これら全ては哺乳類であり恒温動物です。そのため、
体内の生命活動を維持するには、体温を一定に保たなければなりません。
ここで、より話を分かりやすくするために、突然ですがマイン●ラフトのスライムを思い出してみてください。えぇ、真四角でペッタンッ、ペッタン!と意味もなく音を立てているあの緑の謎生物です。そして、彼らに「恒温動物」という属性を付与して(なろう系ですか?)を考えを膨らませていきます……。
さぁ、こちらに、その変わったサイズのスライムを3匹用意しました。一匹は各辺が10cm立方スライム、もう一匹は30cm立方スライム、そして最後の一匹は45cm30cm立方スライムです。それぞれの体積と体表面積を調べてみましょう!
まず体積。なお、今後の話を分かりやすくするために、体積(㎤)をそれぞれ容積(L)に変換しておきます。
10cm立方スライム
→10cm×10cm×10cm=1,000㎤=1L
30cm立方スライム
→30cm×30cm×30cm=27,000㎤=27L
45cm立方スライム
→45cm×45cm×45cm=91,125㎤=91L
(小数点以下四捨五入)
次いで体表面積(㎠)を調べてみます。
立方体ですから面は6つあり、一匹は各辺はそれぞれ10cm、30cm、45cmですから……
10cm立方スライム
6×(10cm×10cm)=600㎠
30cm立方スライム
6×(30cm×30cm)=5,400㎠
40cm立方スライム
6×(45cm×45cm)=12,150㎠
ここで、各スライムにおいて容積(1L)あたり、どれだけの体表面積があるか計算で求めてみます。
10cm立方スライム
→600㎠÷1L=600㎠/L
30cm立方スライム
→5400㎠÷27L=200㎠/L
45cm立方スライム
→12150㎠÷91=133.4㎠/L
(小数点以下四捨五入)
以上のように、 体積が大きくなればなるほどに、1Lあたりの体表面積が小さくなっていくのがお分かりいただけると思います。
ベルグマンの法則の背景にあるもの
さて、熱エネルギーは高い方から低い方へと移動します。
もし真冬なら、36℃前後の体内から氷点下の外気へとエネルギーが逃げていくのです。これを介してるのが体と外界の境目である表皮です。
ここで思い出してほしいのが今までの計算結果。体積が増えるほどに体積と体表面積の比は小さくなります。つまりは、単位体積あたり外界に接している表皮面積が少ないということです。結果、10cm立方スライムより、45cm立方スライムの方が、
体積当たりの体表面積が少なく、熱を逃しにくいということになります。
これは、いままで例に述べてきた動物にも当てはまります。マレーグマよりホッキョクグマの方が、ケラマジカよりエゾシカの方が、低緯度のヘラジカより高緯度のヘラジカの方が、という具合にです。水槽だけでなく動物たちも、体が大きい方が外気に熱を奪われず、寒さに強いということを示しています。
実際、自然環境下では対流や伝導など外気とやりとりで、熱がどんどんと失われていきます。そして、体温を保つためのエネルギー源たる餌は限られています。そのため、寒冷地では体が大きい方が有利。体温を奪われづらくなるからです。
結果として寒冷地は体が大きなものが生き残った。
これに気が付いて関係性を示したのが、ベルグマンの法則というわけです。
水槽も同じ
さてこのベルグマンの法則、実は水槽にも全く同じことが言えます。上の緑の欄より「スライム」と記された部分を「キューブ水槽」に換えてみます。さらに、60cm規格水槽の例も合わせて下に載せたいと思います。
10cmキューブ水槽
→600㎠÷1L=600㎠/L
30cmキューブ立方水槽
→5400㎠÷27L=200㎠/L
45cmキューブ水槽
→12150㎠÷91L=133㎠/L
60cm規格水槽
【体積】
→60cm×30cm×36cm=64,800㎤=65L
【表面積】
→2×60×36+2×60×30+2×30×36=10,080㎠
【体積と表面積の比】
→10,080㎠÷65L=168㎠/L
(小数点以下四捨五入)
以上のような結果から、水槽のサイズが大きくなればなるほど熱が逃げづらく水温の安定に繋がり、小さいほどに外気の影響を受けやすくなると考えられるのです。
(自然は美しいが厳しい) |
どの水槽を選ぶ?
水量と水温の現実
とは言え、
以上はあくまで机上の話。
大きな水槽では、室温が26℃以下となる秋~初夏までならその恩恵を受けられますが、夏場の高水温の際には、一度水温が上がってしまうと下がりづらく大きな足かせになります。結局はヒーターはおろか、冷却ファン・クーラーも大型になりがちで電気代がのしかかることになります。
対して、小さな水槽は夏の高水温時に器具を用いて水温を下げやすくはあるものの、冬場の水温維持には不安が残ります。とりわけ厳冬期の深夜早朝は水温が低下しやすく、ヒーターフル稼働でも温度を維持できないことも。その対策としてワンランク上のヒータを取り付けることになれば、結局は電気代がかかることになります。
(うーん、どちらにしろ電気代。なら、水質水温を少しでも気にするなら大きい物を、電気代を気にするなら小さい物をという感じでしょうか?)
なお、ヒーター常時稼働状態は最も電気代が掛かる悪手。能力不足の際には、躊躇わず今使っている物より、W数が高い物に交換しましょう
初心者さんならどうする?
というわけで、わたし個人の意見としては双方一長一短。
「もし、わたしが使うなら――」と理屈っぽく考えれば考えるほど、「――という理由から、60cm規格水槽が初心者さんにはお勧めです!」と声を上げたくなるのですが、そうとも言い切れないのが「重量」という残念な現実。
60cm水槽ですら水量や各種器具、
底砂と水槽台を合わせると100kg。
水量が大きいほどに、水換えの労力は増え電気代も上がります。
となれば、やはり45cm規格水槽がお勧めです。
縦横比は黄金比なので水景も自然と美しくなり、それでいて水量は60cm規格水槽の約半分。ただし、器具のラインナップが少ないのが玉にきず。
次点で30cmキューブでしょう。
各社より豊富な器具が発売されています。しかし、水質の変化が早く、設置場所によっては水温の変化も気になります。特に暖房の利きづらい玄関や廊下に設置するのは極力避けるべきでしょう。
残念ですが、60cm規格水槽は個人的には第3位。
器具が重いですから設置は一苦労。水換えも大変ですし、電気代も掛かります。それでも、小型水槽ばかり嗜んでいる人には圧巻の水景が楽しめるはずでしょう。
というわけで、今回はここまで。
長文読んでいただき、ありがとうございました。
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