2025年8月8日金曜日

グリーンロイヤルプレコのお迎えから知る、店員さんへの質問の大切さ

今からプレコをお迎えしに、ショップへ行きます

まるで水槽の底にひっそりと暮らす隠れキャラのようなプレコ。
実は初めての方には選び方が少し難しい魚でもあります。
でも、ちょっとしたコツを押さえれば、お気に入りの一匹にきっと出会えるはず。

今回は、グリーンロイヤルプレコをお迎えする一部始終ストーリーで、抑えておきたいポイントを解説していきたいと思います。

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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。

夕暮れどきの風には、かすかに冬の気配が混じっていた。
街路樹は黄色く染まり、足元にはひらひらと舞い降りるのは枯葉たち。
アスファルトに積もったそれらを踏みしめながら、わたしはロゼッタと並んで歩いていた。
彼女はわたしの水槽のお師匠様であり、ふたりで向かっているのは馴染みの店だ。



グリーンロイヤルをお迎えする一部始終


お師匠様の苦手なもの

ガラス越しの水槽を見つめながら、わたしは胸の奥が高鳴るのを感じて口を開く。

「グリーンロイヤル、いるといいですね」
「んんあぁ? そ……、そうだね」

わたしは小さく笑った。だが、彼女の様子がどうもおかしい。目が泳ぎ、歩く姿もどこかふわふわとしていて落ち着きがない。

「……どうしたんですか?」

ロゼッタが急に声のトーンを落とした。

「そ、その、今日、あの店で買うんでしょ?」
「そうですけど……?」

わたしは少し戸惑ってしまった。いつもなら自信満々なお師匠様が、どうにも様子がおかしいのだ。
山のように積まれた水槽の中、滅多に見られない珍種がたくさん泳いでいるんだと、初めてわたしを連れてきてくれたのは、この人なのだが……。

彼女は目を逸らすようにして、小さくつぶやいた。

「いや……、キミが主体になって、声を掛けてくれたまえ」

わたしは小さく頷いた。

「もちろんです」

でも、いつもは率先して人に話しかける彼女が、なぜ今回はそうまでして避けるのか。わたしは首をかしげると、わずかに眉をひそめて、ぽつりとこぼした。

「その、店長さんが苦手なんだ。まるで魚屋みたいでね」
「魚屋? 熱帯魚店だから当然でしょう?」

「そうじゃなくて……、姿を見ればわかるさ!」

わたしは苦笑しながら、彼女の横顔を眺めた。普段の自信満々な様子は影を潜め、どこか困っているようでもあり、逃げ惑っているようでもあった。
少しだけ面白く感じたが、怯えきっている人を前にしてからかうのは、さすがに憚られた。



プレコの状態をチェックする

照明が太陽かと思うほどに店内は暖かく、水槽が連なる棚の中には、無数の魚が漂っている。この場所にいると、真夏の海にいるような錯覚を起こし、季節の感覚が曖昧になる。

「もう決まっているのかな?」

お師匠様はわたしの視線を追いながら、上ずった声でそっと尋ねてきた。

「ええ、あの子です」

軽く指で触れるように示した水槽には、黒地に鮮やかな緑の模様を持つプレコが一匹、流木の影でじっとしていた。赤褐色の鋭い猫のような目と合うと、大慌てで給水パイプの裏へと隠れてしまった。

「……どうやら近すぎて嫌われてしまったようだね。でも、ボクたちだって目がいいんだ。もう少し離れてみたらどうだい?」

それはそうかもしれない。
水槽一つ分横に移動し、少し距離をとること10分。
その子がようやく動き出し、熱心に流木をかじり始めた。
わたしは、お師匠様といっしょに眼光鋭く観察する。

「ふむ。なかなかいいね。目のへこみもない
ヒレが切れている様子もありません

遠くから眉間にしわを寄せて、気づかれぬよう静かに見つめながら、彼女が続けた。

でも、お腹はどうだろうか?

わたしはゆっくりと身をかがめ、視線を腹部に合わせたのだが、その動きがどうやら気づかれてしまったらしい。残像を残してパイプの裏に逃げられてしまった。
だが、幸いなことに一瞬ではあるが姿かたちを見ることができた。

「これは……へこんでもいなければ、膨れてもいませんね」
「むむむ。真っ平だったね。それはちょっと判断が難しいかもしれない。どうしたものかね、アクアくん?」

「それに餌付けの状況入荷時期も気になります」
「そうだねぇ。その通り。見たところ、流木は食べているようだけど……」

今度はプレコが隠れた水槽内を堂々とのぞく。
茶色の糞しか見当たらない。

「まだ、流木しか食べていないのかもしれないよ?」
「うーん……流木でも食べられているなら、よしとするべきなのか、そうでないのか……」

「難しいところだね。見立てでは餓死の峠は越えてそうだけど、それでも餌付かなければ結局同じことかもしれないね」

そして、お師匠は両手でぽんと手を叩いて見せた。

「ボクなら、あと2週間は様子を見るね」
「そうですね。もし2週間経過してこの様子なら、餌も食べられているし、環境にも適応できているということになりますね」

「その通り♪」

とはいえ、こんな状態のいいプレコ、2週間も待てば間違いなく売れてしまうだろう。

店員さんに、聞いてみるしかなさそうですね……

といった瞬間、ロゼッタは急に俯いて目をそらし、そそくさと用具売り場へと向かってしまった。

「それじゃあ、頑張ってね」

と、メールを残して。

目の前には、「御用の方はこちらから」と記されたボタンがある。
そういえば、この店で生体を買ったことがない。

レジはいつものアルバイトの若い女性なのだが……。



勇気を出して聞いてみよう

ピーンポーン♪

「あい、らっしゃい!」

生体売り場の入口にあるインターホンを押すと、不意に背後から大声が飛んできて、思わず肩が跳ねた。振り返れば、坊主頭にゴムエプロンの大男が、バックルームへと続くカーテンをかき分けて飛び出してきた。
白いTシャツからは筋張った太い腕がのぞき、分厚い肩にはホースがたすきのように巻かれている。なんとも異様な雰囲気に、わたしは思わず身構えてしまった。

「お客さん、どんなご用で?」

これが噂の店員か……。
なるほど、熱帯魚屋というより、これはたしかに魚屋だ。
包丁を持たせれば、もはや魚河岸で働いている人にしか見えないだろう。

こういう時は、気迫で負けるのが一番よくない。
わたしは負けじと、威勢よく声を上げた。

「すみません、このグリーンロイヤルなんですけど!」
「へい、ありがとうございやす! 一匹ですか!?」

すでに、ゴムエプロンに取り付けてある袋の束から、1枚を取り出そうとしている。

「いや、そうじゃなくて、その……いつ頃入荷したものなんですか?」

一瞬、眉にしわが寄り、鋭い視線が飛んできたような気がした。が、それはわたしの想像の産物なのだろう。
よく見ると、大男はあっけらかんとしている。

「おおっと、それはだな。うーんと、そうだな……」

彼は店の隅にある大きなカレンダーをチラと見てから、指を折って数えた。

「ちょうど1週間前だな」
「それと、餌付けの状態なんですが……」

「まー、見ての通り、うちは他の魚もやってるから、直接食べてるところは見てないな。それでも、餌が減ってるところを見ると、食べてるんじゃないかい?」

口ぶりからすれば、餌を与えているようで、それを食べているらしい。
安堵して胸をなでおろすが、まだこの大男から聞いておきたいことがある。

「あの、その……ちなみに、餌は何を?」
赤虫だい!

まいった、赤虫か。
確かに、流木以外でもすぐに食べてくれて栄養もあるが、長期で与えるには不安が残る。
人工飼料が理想だったが、そう都合よくはいかない。

「他に何かあるかい?」
「え? あぁ、もう大丈夫です。少し考えさせてください」

店員は笑顔のまま、にやりと笑った。

せっかく飼うんだから、ゆっくり悩んだほうがいい。それが魚と飼い主、お互いのためだからなっ! んはははは!

大きな声で笑うと、大男はずかずかとバックヤードへと消えていった。

「お師匠様と大男。性格は違うが、きっと頭の中は考えていることは同じなんだろうな……。もったいない……」

そうぽつりと呟くと、お師匠様がそろりそろりと戻ってきた。

「入荷時期はいつだって?」
「1週間前だそうです」

「ふむ。状態はいい。でもボクは、入荷してからだとちょっと早すぎるような気もするな」
「そうかもしれません。でも、流木は食べているし、赤虫も食べているらしいので、チャンスはあると思うんです」

ロゼッタが口元をほころばせ、楽しげに言った。

「……あぁ? そうなの? 拒食がなければ問題ないかもよ?」
「へ?」

「だって、キミの家のセルフィンプレコ、餌食べてるんでしょ?」

――あぁ、そうか!
セルフィンプレコに釣られて食べてくれるかもしれない!



釣られ食い

家に連れ帰ったその日から、グリーンロイヤルはしばらく隠れてばかりいた。最初の三日間は、流木の影にぴたりと張りつき、一切動こうとしなかった。

ときどき、セルフィンプレコとの間に微妙な距離感が生まれた。
テリトリー争いのような素振りも見せたが、わたしが流木を二本、うまく絡み合うように配置したおかげか、大きな喧嘩にはならなかった。

だが、四日目。

その夜、餌を投下して水槽をのぞいたわたしは、目を見張った。
流木裏からセルフィンプレコが飛び出してきて餌を頬張った瞬間、グリーンロイヤルまでもが餌に飛びついたのだ。まるで、我慢していた衝動が爆発したかのように。

釣られて……食べた……!

わたしは目を見開き、思わず声を上げた。

嬉しい。とても、嬉しい。

だが、それは同時に新たな問題の始まりでもあった。
二匹とも餌に夢中になり、互いに牽制し合いながら、餌を奪い合い始めたのだ。

そして、最終的にセルフィンプレコが餌を吸盤に張り付け、持ち逃げしてしまった。

後日から、餌の量を増やすことにした。
当然、残飯も多くなり、フィルター掃除の頻度も上がる。
水槽のメンテナンスは大変になる一方だった。

それでも、わたしの心は満たされていた。

水槽の底で、あの美しい緑の体が、穏やかに流木をかじっている。
その姿を見ていると、ロゼッタの言葉が蘇った。

「釣られて食べると思うよ」

水槽の底に目を落としながら、わたしは心の中でつぶやいた。
ほんとうに、その通りだった。

わたしの水槽は、静かだが、確かな命がある。
そしてそれは、少しずつ、確実に馴染んでいこうとしているのを実感した夜だった。



はじめてのプレコ選びに迷ったら

プレコを飼ってみたいと思っても、どの子を選べばいいか迷ってしまいますよね。プレコは種類がとても多く、模様もサイズも性格もさまざま。
お店に行く前に、まずは「どんな環境で飼えるか」をチェックすることが大切です。具体的には、水槽のサイズやフィルターの種類、そしてタンクメイトと適した水質については、必ず調べておきましょう。

お店では、気になるプレコがいたら、まず体の状態をよく観察しましょう。お腹がへこんでいないか、ヒレが傷ついていないか、目に張りがあるかなどを見るのがポイントです。そして、実際に餌を食べているかどうかも重要。流木しか食べていない場合、人工飼料への餌付きが遅いこともあるので要注意です

入荷してから時間が経っている個体の方が、環境に慣れていることが多いので安心感があります。ただし、状態が良い子はすぐに売れてしまうこともあるので、気になる子がいるなら、店員さんに「入荷日」や「餌の内容」を聞いてみましょう。勇気を出して質問すれば、今後の飼育に有益な情報を得られるかもしれません。

プレコは臆病な一面もあるので、先住魚との相性も考慮すると安心です。とくに同じ底もの同士だと、餌を取り合うこともあります。できれば隠れ家を複数用意して、ストレスなく過ごせる環境をつくってあげてください。



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