2025年8月11日月曜日

新魚導入時や病気の予防に、粘膜保護剤は困ったときに頼りになる。

粘膜保護剤とは?

お魚にとって「水の変化」は、ちょっとした大事件。
見た目には元気そうでも、実は大きくストレスを感じていることもあるんです。そんなとき頼れるのが、粘膜保護剤。水槽に添加するだけで、魚たちの体を病気からふんわり守ってくれる、あると便利な添加材です。

この記事では、そんな粘膜保護剤について、ストーリーで紹介していきたいと思います。

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扉を押すと、からん、と軽やかな鈴の音が響いた。木枯らし吹き荒れる外とはまるで別世界のように、店内はほんのりと湿っていて、常夏の魚たちが所せましと漂っている。

目の前に広がるのは、無数のガラス水槽たち。並べられた水槽のひとつひとつが、まるで小さな銀河のように光を宿し、それぞれが違う星に住む異星人のようだ。



粘膜を保護する意味


青い水槽

「らっっしゃい!」

突然の大声に、わたしもロゼッタも肩を跳ねさせた
そして、お師匠様は小さく息を呑み、そそくさ器具売り場へ隠れに行ってしまった。

声のする方を振り向くと、店の奥から大きな男性が現れた。白いTシャツの袖を腕まくりし、片手に変わった形のホースを抱えている。彼の額には汗がにじみ、忙しそうに動いていた。

「ごめんよ、今ちょうどトリートメントしてるとこでさ」

彼は申し訳なさそうに言いながらも、手早く水槽に水を注ぎ込み、何かを投入した。すると水の中に青い色が広がり、まるで青い絵の具を流したように鮮やかに染まった。

「トリートメント?」



トリートメントとは?

店主の大男がバックヤードへ戻ると、お師匠様は店内をきょろきょろと見回し、大男がいないことを確かめるように戻ってきた。

「トリートメントって……、なんですかね?」

わたしが不思議そうに尋ねると、彼女はにんまりと笑い、いつもの得意げな表情を作った。

「ここで言うトリートメントってのはね、簡単に言えば白点病とか水カビ病とか、そういうのを未然に防ぐための処置なのさ!
「へぇ~病気になる前に、そんなことまでやるんですか?」

驚いたように問い返すと、お師匠様は軽く頷き、目を細めて水槽を見つめた。

「そうなんだ。魚病薬を使ってね。病気はあっという間に蔓延するからね」

その言葉にはどこか重みがあり、わたしも胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感じがした。

「そんなに……ですか? 予防って、……やっぱり大事なんですね?」
「もちろんさ! 魚にお医者さんはいないからね」

彼女は肩をすくめ、少し微笑みを含ませながら言った。その瞳には、魚への深い愛情が宿っている。
なるほど、と頷いてみせたものの、胸の奥に不安が渦巻いていた。

グリーンロイヤルプレコを迎えてまだ数日。
しかしわたしは、トリートメントなんてものは知らなかったのだ。

あの分厚い体にゆっくりとした動き。見るたびに、わたしは何かできることはないかと考えてしまう。もし体調を崩したら。もし病気になったら。わたしにちゃんと守れるのだろうか。

考え込んだ末、思わず言葉にしてしまった。

「その……、うちのグリーンロイヤル、お迎えしたばかりなんです……トリートメントもしないで、セルフィンプレコの水槽に入れてしまったんです」

お師匠様はじっとわたしを見つめ、静かに息を吸い込んだ。

「ふむ、それで、『今からでも、なにかできることはないか?』ということだね?」
「……はい。やっぱり、ちゃんと塩浴か薬浴してから入れるべきだったんですよね……焦ってて……」

焦るように呟くと、彼女は顎に指をあてて考え込んだ。わずかに口角を上げ、ぽんと指を鳴らす。

「そうだね、しいて言えば塩浴かな。でも、そもそも、ナマズは魚病薬に弱いから緊急時でしか使いたくないものだしね
「……はい」

「どちらにせよ、フィルターの中の細菌が著しく調子を崩してしまうんだ。つまり、軽くリセットするようなものさ。だから、本水槽でトリートメントというわけにはいかないんだ」

お師匠様の表情は少し曇り、慎重な語調だったが、その言葉には確かな自信が宿っていた。

「むむむ……、じゃあ別の水槽でトリートメントするのはどうでしょうか?」
「デリケートなプレコ相手に本気かい? それこそ拒食症になるかもしれないよ?」

おどけた声色で言いながらも、どこか心配そうに目を細めた。

「じゃあ、なにか今からでもできる方法はありませんか? どうしても守ってあげたいんです!」

わたしの切実な言葉に、お師匠様はぱっと表情を明るくし、ひと笑いした。

「あはは! そうだね……粘膜保護剤っていうのはどうだい?」
「粘膜?」

・よく知られているアクアセイフは、青色透明の液体


治療ではなく予防

首をかしげるわたしに、彼女は優しく頷いた。

「そう。粘膜さ! 白点病も水カビ病も、体の表面から侵入する」

声に力が入り、誇らしげな笑みを浮かべている。

「つまり、粘膜がしっかりしていれば、病気になりにくいってことですか?」

わたしの質問に、彼女はさらに頷いた。

「その通り! 粘膜は、魚にとって一番最初のバリア機能になっているのさ!

知らなかったことを認めるように、小さく息をついた。

お師匠様の言葉は、医学者のように理知的で、どこか胸に響くものがあった。

「他にもこういった薬剤は、塩素を中和したり、重金属を取り除いたり、機能はいろいろ。でもやっぱり、一番の目的は病気の予防だね

「いったいどんな病気があるんですか?」
「特に、導入直後の高ストレスで免疫力が低下している時期なんかには、やっぱり白点病だね。実際、ボクは効果があると思う」

わたしは知らない世界で、魚たちが毎日静かに小さな敵と戦っていることを思い知らされた。

ふと、最近のことを思い出す。セルフィンプレコとグリーンロイヤルが水槽の底で押し合いへし合いしていたことを。もしかして、それは粘膜を傷つけているのかもしれない――。

「うちのセルフィンプレコ、グリーンロイヤルとよくおしくらまんじゅうしてるんです。まだけがはしてないけど……」

言葉を漏らすと、お師匠様は険しい顔を浮かべた。

「それはよくないね。免疫力が低下して、体の擦り傷ができれば水カビ病になりやすいんだ。白点も水カビも、どちらも皮膚から侵入するから、粘膜が弱ってたら要注意さ

言葉の端々に現実の厳しさを知る者の鋭さがにじむ。

なるほど、目に見えない敵はいつでもそこにいる。水の中では油断は命取りなのだ。

とは言え、まずは病気にさせない環境を整えることだね。

小さく頷くわたしに、彼女は優しく続ける。

「それに、魚が環境に慣れて免疫力がついてくると、ちょっとやそっとじゃ病気にならなくなるから、そこまで心配しなくていいと思うよ。とは言え……」

おもむろに口を開き、

「キミの水槽はプレコ水槽だから、もっと流木を入れたほうがいいのかもしれないね?」

軽く肩をすくめつつも、真剣なまなざしで見つめられる。

「なるほど。今は大きな流木1本と、小さなアヌビアス付きの流木を使っていますが、喧嘩が起きるようでは、数が少ないかもしれませんね」

わたしの言葉に、彼女はうなずいた。

「とにもかくにも、ちょっとした変化に気づいて、すぐに対応できること。結局はそれが、一番の予防になるのさ」

その言葉は教訓のようで、わたしの胸に深く刻まれた。

・4in1は、わずかに青味掛かった無色透明の液体


ストレス過多が予想されるときに、とりあえず使うもの

迷った末に、わたしは粘膜保護剤のボトルを手に取った。この黄色のボトルが、きっと魚たちの盾になるはずだろう。
それは臆病心なのか、それとも責任感なのか、自分でもよく分からなかった。ただ、この小さな世界で、一つでも命を失いたくないという、今までにない強い気持ちがあった。

さらに、マラカイトグリーンという薬にも手を伸ばしかけたが、

「うちに、たんまり残ってるよ。いざというときは、貸してあげる」

ロゼッタはくすっと笑いながらそう言った。
その笑みは、晩秋の夕暮れに灯る小さなランプのように、あたたかくて寂しさを包み込んでくれるような優しさだった。

わたしは小さくうなずき、薬の棚からそっと手を引いた。

扉を開けると、夕暮れの空っ風が頬を撫でた。空は茜に染まり、遠くでムクドリが群れになって、名残惜しそうに鳴いている。

帰ったらすぐに水槽の様子を見よう。グリーンロイヤルの動き、セルフィンプレコとの距離、そして水質の検査。わたしにできることは、まだあるはずだ。

とんとん拍子で進んだセルフィンプレコとの日々とは違い、ここにきて初めて、小さな命を病気から守ろうと決意したのだった。



まとめ

お魚たちの体を包んでいる「粘膜」。
一見するとただのぬるぬるですが、実はとっても大切なバリアの役割を果たしています。この粘膜が健康であれば、白点病や水カビといった病原体が体に入り込むのを防ぎ、傷ができても細菌感染を防いでくれているのです。
つまり、粘膜はお魚にとっての“見えない鎧”のような存在なのです。

しかし、水換えや温度変化、輸送などのちょっとした環境の変化で、この粘膜はすぐに傷ついてしまいます。そこで頼りになるのが「粘膜保護剤」。水槽にほんの少し加えるだけで、水の中に保護成分が広がり、粘膜を優しく包み、働きを助けてくれるといわけです。

その粘膜保護剤には、カルキ抜きや水質調整の機能が含まれていることも多く、使い勝手の良さも魅力のひとつ。
とくに新しい魚を迎えたときや、調子が少し気になる子がいるときには、ぜひ取り入れてほしいアイテムです。

毎日のケアに、そっとひと手間。病気の予防やストレス軽減に役立つ粘膜保護剤、まだ使ったことがない方は、一度試してみてはいかがでしょうか。



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