色温度とは?
水草の緑がなぜか黄色っぽく見えたこと、ありませんか?
もしかするとその原因は「色温度」にあるのかもしれません。水槽ライトの色味ひとつで、水景の雰囲気や水草の美しさはガラリと変わるんです。
数字の意味を知って、自分好みの“光の世界”を見つけてみませんか?
今回もストーリーで解説したいと思います。
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ベランダでは、色づき乾いた落ち葉がひらりと舞い、迫る季節の移ろいを静かに知らせている。
雨上がりの午後、薄曇りの空から差し込む淡い光が、窓辺の20L水槽に反射し、天井には大きな光の大三角が作られていた。
初めて買った水槽だ。
もう何か月も経つが、右も左もわからず夢中で立ち上げた記憶が、まだ夢のように残っている。
今はすっかり役目を終え、水槽の道具入れになっている。
だが、わたしは今、この水槽にもう一度命を吹き込もうとしている。
アヌビアス・コーヒーフォリア――あの白い新芽が美しい水草に、新たな住処を与えるために。
色温度は直感で選ぶ? それとも……
新入りライトくん
コーヒーフォリアは、過去に何度かプレコの食害にあっている。
葉の裏だけ集中的に食われ、いくつか穴が空いてしまった。おそらく、調子の悪い葉にできたコケを、葉ごと食べていたのだろう。そう推測している。
だが、対策を講じる間もなく、いつの間にか被害は止まっていた。
セルフィンプレコが、見違えるほど大きくなったからだ。
わが家にやってきたときから2cm以上は伸び、今ではすっかり恰幅のいい魚体となっている。
アヌビアスの中で休もうにも、体がはみ出しシェルターとして機能しないだろうし、体重で葉から滑り落ちてしまうのかもしれない。
万事解決のように思われた。
しかし、平穏は長くは続かなかった。
グリーンロイヤルがやってきて、水槽内の力関係は一変した。
縄張り争いが勃発し、流木を巡り押し合いへし合いの力比べ。巻き込まれたアヌビアスは、朝には浮いている始末。ビニタイで何度固定しても元の木阿弥だった。
だから、あの20L水槽の出番というわけだ。
静かに手を伸ばし、道具入れとなっていた古い水槽のフタを開ける。
埃をぬぐい、再びセッティング。立ち上げに必要なものは揃っている。
そう、ライトを除いては。
せっかくなら水草に良いものを、ということで新しいライトを見繕ったのだが……。
その新しいライトが、どうにもおかしい。
点けた瞬間、水草の緑がまるで黄色に染まったように見える。
「……ちょっと新入りライトさん? あなた色合いおかしくありませんか??」
K(ケルビン)の意味
曇天の空の下、窓の外では木立がざわざわと揺れ、風が枝葉をくぐる音だけが絶え間なく響いていた。
二階から見る赤レンガの地面は濡れて鈍く光り、ぽつりと灯った街灯が黄昏に沈むキャンパスを照らし、あたりは黄金色に染まっていた。
そのバルコニーでは、おどけたように笑いながら、お師匠様が唐突に口を開いた。
「あはは! それは色温度ってやつさ!」
「はい? 色温度ですか?」
怪訝な顔をして聞き返すと、彼女はさっと髪をかき分け、得意げに話し始めた。
今、目の前にいる女性は、わたしに水槽のことなら何でも教えてくれるお師匠様で、名をロゼッタという。
「まぁ、ざっくりいうなら、色温度は色味を温度で表す方法でね……黒体ってわかるかい?」
「はぃぃい?」
あまりに唐突な話題に、わたしはついていけず呆然とした。
――黒体ってなんだ?
口をぽかんと開けて、目をぱちくりしていたのか、お師匠様がすかさずフォローに入る。
「だよね。物理の話になるからね。まぁ、簡単にいうと鉄の球があるとするじゃない?」
「……?」
「それをひたすらガスバーナーで熱すると、どうなる?」
「んー……ん? そうですね、熱々になって……熱を帯びてほのかに光始めます」
「その時の色はどうかな?」
「真っ赤に染まってます!」
「その時の温度(K)を色の指標としたのさ」
「おぉ! なるほど! だから絶対温度なんですね?」
「大正解! でも、正確には鉄ではなく、黒体っていう理論的なモデルを加熱した時に、発する光と温度を照らし合わせてもののことなんだけどね」
彼女は少し声のトーンを落として補足したが、その場で思わずむせそうになりつつ、わたしは小さくうめいた。
「……んん……黒なんとかの、理論がどうかしましたか? ぐほっ……」
「ん? キミ、もしかして物理苦手なのかな?」
彼女は座っていたベンチから身をよじると、はたと振り返り、スラリとした眼を丸くしてこちらをのぞきこんできた。
そんなに見つめられてしまっては、認めざるを得ない。わたしは視線を落としながら、しぶしぶ答えた。
「……はい。大っ嫌いです」
「やっぱり? 実はボクもなんだ! この間の物理化学なんて……」
思わず、互いに手を取り握りあう。
※説明しよう!
生物系は理系でありながら、物理に弱いことが多いのだ!
そのため、光についてどうしても触れざるをえない物理化学は、まさに修羅場となる。
が、それはまた別の機会に――。
「まぁ、とにかく、だいたい5000~6000Kを中心として、それより低ければ赤く、高ければ青いってことなのさ」
「これは、えぇっと……4000Kだから、つまり赤っぽいということですね」
「その通り! 明るさのルーメン(lm)と同じく、パッケージに書いてあることが多いんだ。だからよくチェックして買うようにね!」
![]() |
・色温度4000K。黄緑の水草が黄色に染まる |
結局は使い手の感性次第
いよいよ屋根を叩く雨音が聞こえてきた。夕暮れのキャンパスはたちまち静かな霧に包まれ、木々が深く呼吸しているようにざわめいている。レンガに跳ね返る街灯の光は霧の中で滲み、天から落ちる微かな水音だけが、世界の輪郭をそっとなぞっていた。
ケータイで撮った写真を見せると、目を見つめたまなこを上げてにやりと笑い、わたしは困惑を押し隠すように目をそらした。
「ふふん♪ とはいえ、4000Kはそんなに嫌かい?」
「え? おかしくないですか? 水草の緑が黄色に見えてるんですよ?」
「ふむ。でもボクは、そこまでおかしいとは感じないなぁ……」
彼女は、まるでそこに水面があるかのように空中を指先でなぞると、オレンジ色の街灯に照らされた霧を眺めながら続けた。
「たとえばね? キミはダイニングのライトの色は何色が好きかい?」
「そう言われても……でも、やっぱり食べ物の色がはっきり見える、明るい色がいいですよね?」
「それはつまり、学食とかで見かける白い光のことかな?」
「……そういうことになります」
「それじゃあ、ボクとはまるで違うね」
「どうしてですか?」
風が吹くと霧が消え、街並みが露になった。
遠くの町は濃紺に染まりはじめ、丘の下の国道では行き交う車が慌ただしく動き、白い光の筋を描いている。
「そうだね。赤味があるとお肉やお魚が美味しそうに見えるというのもあるけど……なにより、リラックスできるからかな?」
わたしはもう一度、バルコニーから周囲を見回した。
遠くでは白い光が目まぐるしく動き回り、さながら帰宅ラッシュのドタバタ劇が繰り広げられている。しかし、キャンパスの中は橙の光がもたらす静けさで、時間の流れがまるで違って感じられる。
「なるほど……」
「わかってくれたかな? 人によって、水槽に求めるものが違う場合もあるんだ」
「つまり……えーっと、夕焼け水槽とか、ミッドナイトオーシャン的な水槽とか。そういう水槽を好む人もいるということですかね?」
口に出した瞬間、自分でも気に入った例えだと感じて、自然と口元がほころぶ。
お師匠様は目を見開き、ポンと手を叩いた。
「おぉ! いいたとえだねアクアくん。そういうことさ!」
「夕焼けは赤っぽいし、夜の海は青っぽいから……」
「そうそう♪ 前者は色温度が低くて、後者は高いってわけ」
そしてお師匠様は大きく深呼吸し、胸を張ってわたしの目をまっすぐに見つめた。
「それからね、ここからが一番大切なところだよ?」
「はい?」
「ライトは水景全体を、その色味で染めてしまう。だから、人によって好みが大きく分かれるんだ」
「あぁ……ダイニングの光と同じ、ということですね?」
「その通り!」
「つまり、一人ひとりの感性で、好きな色が少しずつ違うってことですね」
「大正解♪ だから、評判だけでなく、自分の好みに合うかどうか、ちゃんと確認してから買わなきゃダメだよ?」
――ああ、やっぱり。
あのライトは、どうやら失敗だったらしい。
納得はできなかったが、しぶしぶ返事をするしかなかった。
「それとね、使い続けるうちに、意外と気に入ってしまうこともあるんだ。ダメだからといって、すぐに交換しようとせず、少しだけ辛抱してみよう?」
――そんなこともあるのか。
とりあえず、ここはひとつ、言われた通りに辛抱してみるか。
![]() |
・色温度7200K。白く柔らかいイメージか |
新人くんのその後
夕方、カーテン越しに差し込む金色の光が、コーヒーフォリアの葉先をやわらかく照らす。
その葉は、確かに再び成長を始めていた。
結局、わたしはこのライトのことを気に入ってしまった。
試しに何度か、これまで使っていたライトに戻してみたものの、違和感が拭えず、すぐに新しいライトに戻してしまう――そんなことを何度も繰り返していた。
慣れというのは恐ろしい。
いや、慣れではない。いつの間にか、この光の色に魅せられてしまったのだろう。
この色と長い付き合いになる。そんな予感がした。
その水槽だが、今は外掛けフィルターも設置して、ゆるやかな水が静かに流れ落ちている。
余っていた大磯砂を洗って敷き詰めると、箱の中には落ち着いた景色が広がっていた。
あとは――魚を入れるだけだ。
ふと手を止め、わたしは首を傾げた。
「あれ? これって……水槽が増えるパターンにハマった……かも?」
つぶやいたあと、胸の奥に広がる期待に思わず苦笑が漏れる。
静かに、でも確かに、また新しい日々が始まろうとしていた。
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・色温度10000K。すっきりとした見た目が印象的 |
色温度って?
最後に、ストーリーで紹介した「色温度」についてまとめて、話を終えたいと思います。
色温度(ケルビン、K)とは、光の“色味”を数値で表したものです。一般的には、数値が低いと赤みがかったあたたかい光になり、高いと青みがかった涼しい光になります。たとえば、家庭の電球のようなオレンジ色の光は約2700K、青空の下の自然光はだいたい6500Kです。
水槽ライトも同じで、4000Kくらいのライトだと赤っぽく見え、6500Kくらいだと白っぽく見え、10000Kでは、青みがかかったように見えます。水草の緑をしっかりと鮮やかに見せたいなら、5000K~6500Kくらいが目安。とはいえ、「どの色が好きか?」は本当に人それぞれ。
たとえば、夕焼けのような赤みのある光が心地よく感じる方もいれば、昼間の海のように爽やかな青白い光が好きな方もいますし、青く深い大海原に癒される人もいます。
水槽のライトは、単なる照明ではなく、水景の全体の雰囲気を大きく左右する大切なアイテムです。だからこそ、数字や評判だけで決めず、実際に目で見て、自分が「いいな」と感じる色味を選ぶことが大事なんです。
ちなみに、最初は「あれ、変な色?」と感じても、意外と慣れてくることもしばしばあります。 しばらく使ってみたら「あれ? この光、意外と好きかも」なんてこともよくあることで、即交換してもいいかもしれませんが、気長に使ってみてもよいのかもしれません。
自分の感性にぴったりの色温度を見つけて、水槽ライフをもっと楽しんでくださいね。
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