Oリングのメンテナンスとその意味
水槽の外部フィルター、きちんとメンテナンスしていますか?
「最近、なんだか水漏れしてる気がする…」そんなとき、気が付いてほしいのがOリングの劣化です。
この小さなゴムの輪が、メンテナンスしてなかったばっかりに、大きなトラブルの原因になることもあるんです
今回は、小さくても重要なフィルターケースOリングの役割と、簡単にできるお手入れ方法について、やさしくストーリーで解説していきます。
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午後の光が南の窓から差し込むと、ウォールナットの床を照らし鈍く光らせた。
部屋の一角には静かに水の音を奏でる水槽があり、わたしはその横で作業に追われていた。
今日は外部フィルター清掃をしている。面倒な作業なのだが、幸いなことに、わたしの水槽のお師匠様こと、ロゼッタも助っ人に来ている。
その彼女なのだが、なんだかさっきから様子がおかしいのだ。
わたしと一緒に膝を折って水槽台代わりのデスクをのぞくと、不思議なことに目を輝かせ口元を緩ませた。そして、大きなハンドルを下に引き、パワーヘッドを取り外すと、まるで宝物でも発掘したように、口を半開きにしている。
年頃の女性が、こんな作業で夢中になるなんて少々不思議な気持ちが、彼女の今までの生物オタクとしての生態を考えれば、当然のことなのかもしれない。
頬をほんのり紅潮させ、いかにも嬉しそうなその横顔を見ると、わたしはどこか納得してしまっていた。
赤い輪っかは外部フィルターの超重要パーツ
わたしとお師匠様
パワーヘッドが外されると今度はわたしの出番となる。
いつもの手順で、ウールマットを新しいものに交換し、青いスポンジをバケツの飼育水で軽くすすぐ。
次はフィルターケースとコンテナ。緑色透明の底には流木の削れたカスが沈み、ろ材コンテナもすっかり茶色く染まっている。
――あぁ、プレコが食べてくれたのだ!
と、感慨深げに微笑むと、それをお師匠様は苦笑いして見せた。
きっと、彼女もわたしのことを変人だと思っているはずだ。
……しかし、わたしには彼女を否定する気には到底なれない。
わたしたち深く知る人が見れば、きっと男女の隔たりはあれど、似た者同士だと言うだろう。
それだけ深くて狭い世界に生きているのだ。
手に持ったコンテナを優しくすすぐと、清潔感溢れる純白に色味が戻る。
あとはろ材をセットして、パワーヘッドを取り付けるばかりなのだが……。
甲高い声が背後から飛び込んできた。
「ちょっとまった!」
振り返ると、お師匠様が鋭い目をしてこちらを見ていた。
「Oリングのメンテナンスやったの?」
![]() |
・2213のパワーヘッド。赤い輪になっている部分がOリング |
パワーヘッドの裏側で
わたしの両手からパワーヘッドをひょいと奪うと、彼女はその裏側を器用にいじり、何か取り外してつまみ上げて見せた。
わたしはきょとんとした顔で問い返す。
「はい? この、オー……なんだって?」
その瞬間、ロゼッタはすっと腕を組み、ふぅっと息を吐いて目を細めた。その視線はどこか冷ややかなのに、不思議とその奥にはやわらかい光が宿っている。
「もぉ~! キミって本当に説明書を読まないんだね!」
「……すいません」
ぷんすかと怒りつつも、楽しんでいるような声。
わたしが小さく呟くことしかできないでいると、ぴらりと、彼女は赤くて細い輪っかを、わたしの手のひらに乗せた。
「触ってごらん? Oリングというのは、断面が円になったパッキンのことなんだ」
「これが、オーリング? パッキン……ですか?」
つまんでみると、たしかにブニブニとしており、表面はつるんと滑らかだ。その断面は綺麗な円を描いていて、まるで一本の硬いエアチューブのようだった。
「どうだい? 不思議な感触でしょ?」
「うーん、ゴムのような。さりとて表面がなめらかですし……」
わたしは奇妙な手触りに苦笑しながらも、"あること"で首をかしげた。
「しかし、こんな部品があっただなんて、気づきませんでした。」
どこにはまっていたのか、なんとなく分かるような、わからないような。
でも外された今となっては思い出せない。
そんなわたしの戸惑いを察したのか、彼女はにこりと笑って、Oリングをパワーヘッドの元の位置に戻して見せた
「あぁ! そこにあったやつですか!?」
「んふふ。もう! キミってば、いつもボクの予想通りの反応なんだから」
パワーヘッドの下側、フィルターと重なる部分に、赤い輪がくっきりと映える。
まるで、グレーの本体にアクセントを添えているようだった。
「つまりこれで、パワーヘッドとフィルターケースを密閉するパッキンになるということですね」
「そういうこと。Oリングはフィルターケースを密閉して、水漏れを防ぐものなんだ。おそらく素材は赤のシリコンゴムだね」
なるほどと納得したわたしに、彼女はさらに追い討ちをかけるように言った。
「で、メンテナンスしたの?」
「えぇ? こんな丈夫そうな素材なのにメンテナンスがいるんですか?」
「はぁ、まったく、キミって人間は、説明書を読まない達人だね? 本当に教え甲斐があるなぁ~」
![]() |
・多くの機種において赤色もしくは黒色となっている |
メンテナンスのススメ
気が付けば、なぜかロゼッタが、わたしの部屋の隅にある道具箱を漁っていた。
曰く、Oリングのメンテナンスには、チューブに入った何かが必要らしいのだが。
たしかに、そのようなものに見覚えがあったのだが、使い道が分からず放り込んでしまったと伝えると、彼女が先頭に立って探し始めたのだ。
だが、もはやこうなってくると、どちらが水槽の持ち主で、メンテナンス中なのかわからない。きっと、わたしに一から十まで徹底的に教え込むつもりなのだろう。
しゃがみ込んだ背中を見守っていると、突然、上体を起こしながら叫んだ。
「あった! あったよー!」
その手には、小さな白いチューブが握られていた。
「その、小さな歯磨き粉チューブみたいのが、そうですか?」
「そう、これがワセリンさ!」
軽く頷くと、デスクの上に置いてるティッシュペーパーを一枚手に取る。
「これをね、こうやって上に取り出してね……」
彼女は小さな手でチューブを押し絞り、米粒にも満たない少量のワセリンをちり紙の上に取る。そして、フィルターケース横に置きっぱなしのパワーヘッドをぱっと見るや否や、自身の手に目を向けた。
どうやら、手が足りないらしい。
「ちょっとOリングをとってくれないかい?」
「あぁ、はい、これですか?」
先ほどお師匠様がはめたOリングをぽろんと外し、手渡すと、先ほどのティッシュでワセリンを塗り始めた。
「こうやって塗ってあげるんだ。もちろん素手でもいいよ。その時は、よく手を洗わないと、滑りやすくて危ないからね、重いバケツを持つときは注意するんだよ?」
Oリングは瞬く間に艶やかな光沢を放ち始めた。
だが、わたしには疑問が生まれた。
「ところで、これって何のためにやってるんですか?」
彼女は軽く肩をすくめ深くため息をしたのち、優しい声で答えた。
「こうやってメンテナンスする理由は、Oリングが劣化するからさ。それはつまりどういうことかわかるかな?」
「えーっと、Oリングはパッキンですから……」
わたしは、自分の言葉に自信が持てず、視線を彷徨わせながらしどろもどろになっていると、すかさずお師匠様のフォローが入る。
「そう、パッキンだから?」
「あ! 水漏れですね!」
「その通り!! よく覚えていてくれたね」
上擦った声で正解を言うと、待ってましたとばかりに、大きく頷いてくれた。
だが、すぐさま、それを軽く否定して見せた。
「でもそればかりじゃないんだな」
彼女はOリングをセットし直し、パワーヘッドをフィルターケースの上にそっと置いた。
「それじゃあ、フタを閉めて見せてよ?」
唐突な指示に、わたしはおずおずとハンドルを上げ、パワーヘッドを押し込んだ。
すると、スッ……と吸い込まれるように静かに収まった。
「なんだか、すごくスムーズです!?」
「そうなんだ。パワーヘッドとフィルターケースの隙間って、結構狭いんだよね。だから、無理に押し込もうとすると、Oリングがねじれたり、千切れてしまったりすることもあるんだ。そうなったら、どうなると思う?」
「そうなったら、もちろん水漏れですよね?」
「その通り! だから、こうやって潤滑剤の代わりにワセリンを塗っておくと、余計なトラブルも軽減されるのさ」
「それに、Oリングと言っても結構高額でね。キミの機種なら2,000円ぐらいかな。ボクの機種なら3,000円はするね」
「ひえぇぇっ!?」
「壊れた外部フィルターは動かないし、出費も手痛い。だったらメンテナンスするしかないでしょ?」
わたしはこくこくと頷くしかなかった。
メンテナンスの重要性
それ以来、わたしは外部フィルターの清掃をしたら、かならずワセリンを塗るようにしている。それでも、ねじれて水漏れしたことが数回ある。
これがねじれて千切れてしまったら、お師匠様の言う通り大惨事になるのは間違いない。
百歩譲って、Oリングを買いなおすのは許そう。だが、それまでの代わりのフィルターはどうすればいいのだろう?
水草も魚も、ひと時も止まることを知らないのに――。
メンテナンスの大切さを彼女から教わった一日となった。
まとめ
外部フィルターのトラブルで意外と見落とされがちなのが、「Oリング」の存在です。
Oリングとは、パワーヘッドとフィルターケースのすき間を密閉するためのパッキンで、その名の通り断面がO(円形)になっているシリコン製の部品です。これがあるおかげで、水漏れを防ぎ、しっかりと水の循環が行われるのです。
ただ、このOリング、時間が経つと劣化してしまいます。シリコンゴムの弾力が失われたり、表面が乾燥してひび割れたりすると、密閉性が下がり、水漏れの原因になってしまうことも。そうならないために大切なのが、定期的なメンテナンスです。
メンテナンス方法はとても簡単。まずOリングをパワーヘッドから取り外し、ティッシュややわらかい布で表面の汚れや水分を優しく拭き取ります。その後、ごく少量のワセリンを指先かティッシュに取り、Oリング全体に薄く塗ってあげましょう。このワセリンが潤滑剤の役割を果たし、装着時の摩擦を減らし、Oリングの寿命をのばしてくれます。
ワセリンは必須ではありませんが、塗っておくと装着もスムーズになりますし、結果としてOリングの保護にもつながります。なお、交換用のOリングは意外と高価なものもあるので、日頃のケアで長く使えると嬉しいですね。
水槽を安全に、そして快適に保つためにも、小さなパーツにもぜひ気を配ってみてください。
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